液化石油ガス販売事業における
無断撤去の禁止のルール化について

平成13年7月
資源エネルギー庁石油流通課

1)改正の背景

  1. 数年前から、首都圏を中心に液化石油ガス販売事業者間における新規顧客獲得(顧客切替)競争が激化し、販売事業者というよりは切替専門のブローカーが多数出現し、(1)消費者が知らないうちに他の液化石油ガス販売事業者に転売されるケース、(2)今まで契約していた液化石油ガス販売事業者(以下「旧事業者」という。)から、新たな液化石油ガス販売事業者(以下「新事業者」という。)に切り替えようとする場合に、旧事業者への通告なしに旧事業者の所有物である設備の無断撤去が行われているケース等の現状が指摘されている。
  2. このような無断撤去問題は、一都三県のLPガス協会が会員の液化石油ガス販売事業者に対して行った消費者切替にかかる問題とされる事例のアンケート結果において、1,105件の事例報告中973件を占めており、業界から無断撤去禁止の制度化を強く要望されている。
  3. また、LPガス業界、関係行政機関、消費者団体からなるLPガス流通問題連絡会においても無断撤去禁止の省令化が提言されている。

2)改正の概要

  1. 無断撤去の禁止
    消費者が、今まで契約していた旧事業者から新事業者に切り替えようとする場合に、「新事業者は、一般消費者等から旧事業者に対して液化石油ガス販売契約の解除の申し出があってから相当期間が経過するまでは、旧事業者の所有する供給設備を撤去しないこと。ただし、当該供給設備を撤去することについて旧事業者の同意を得ているときは、この限りでない。」との規定を、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則(省令)(以下「液石法施行規則」という。)第16条(販売の方法の基準)に追加する。(省令改正)
  2. 原則一週間ルール
    現行規定では、「消費者の要求があった場合には液化石油ガス販売事業者はその所有する供給設備を遅滞なく撤去すること」(液石法施行規則第16条第16号)とあるが、正当なまたは合理的な理由がある場合を除き原則一週間以内に撤去することが妥当と考えられる旨を通達に明記する(通達改正)。
  3. 契約における解約猶予期間に関する通達の規定の削除
    契約における解約猶予期間に関しては、「販売契約の解約猶予期間等を定める契約条項がある場合等には、最低限、その日までは液石法上の義務は生じない」
    との規定を削除する(通達改正)。

3)改正点についての考え方

販売事業者の変更に際しては、新販売事業者による過熱した無秩序な切替はもちろんであるが、旧販売事業者による消費者の意向を無視した解約の引き延ばしや設備撤去に応じない行為も厳に慎むべきであり、新旧販売事業者双方が消費者の意向及び適正な取引の観点から、ルールを遵守することが重要である。

  1. 無断撤去の禁止
    以下の理由から無断撒去は取引上適正ではなく、禁止すべきと考えられる。

    • 消費者が、旧事業者から、新事業者に切り替えようとする場合には、本来は、旧事業者が自己の所有物である既存供給設備の撤去を行うべきである。
    • 一方で、旧事業者が、正当な理由もなく設備の撤去を拒むことは、液石法施行規則16条16号に規定する「販売事業者はその所有する供給設備を遅滞なく撤去すること。」に抵触するため、許されない。
    • 同号に規定する「遅滞なく」の意味は、事情の許す限り最も早くとのことであり、旧事業者の業務状況に鑑み、1週間程度以内の合理的な期間内で撒去を行うべきとの趣旨である。(後述)
    • 無断撤去(一般消費者等から旧事業者に対して液化石油ガス販売契約の解除の申し出があってから相当期間が経過する前に、旧事業者の所有する供給設備を撤去すること。)は、旧事業者に猶予されるべきこの合理的な期間を一方的に無視するものであるため、取引上不適正であると考えられる。
    • また、新事業者が、一般消費者と旧事業者の間の契約内容を確認せず、一般消費者からの委任を受けて、旧事業者に解約を通告し、無断撤去を行っている場合がある。このような場合、一般消費者と旧事業者との間の契約条項(例えば、精算と供給設備の撤去の同時履行)に違反する可能性があり、結果的に、契約の当事者である一般消費者が損害賠償のリスクにさらされることもありうるという問題がある。
      ※なお、旧事業者の同意を得た上で、新事業者が撤去を行う場合には、例え即日撤去であっても、無断撤去に該当しないのは当然である。
  2. 原則一週間ルール
    1.  現行規定では、消費者の要求があった場合に、遅滞なく撤去しなければならないとの規定があるが、撤去のための準備期間が必要なこと、料金精算のための期間が必要とされること等の理由に鑑み、相当の期間が必要であるが、これまでの裁判所の判断(横浜地裁平成11年7月:参考参照)も考慮すると、原則一週間以内(一週間までは撤去しなくても良いという趣旨ではない。)で撤去することが妥当と考えられる。ただし、正当な理由がある場合(規則16条16項但書〉はその限りではない。(通達改正)
    2. 遅滞なく撤去されなければ、新販売事業者は、裁判所に撤去の執行に関する請求を行うことが可能であるとする判例がある。この場合、新販売事業者が設備を撤去し旧販売事業者に届けるなど自ら撤去することが可能かどうかについては、法的には、民法の一般原則である自力救済の禁止の原則との関係に留意しなければならない。
      また、遅滞なく撤去されない場合において、消費者名により裁判所に申立が行われ、申立から約2週間後に、裁判所が旧販売事業者に3日以内に撤去を命令した仮処分決定が行われている例がある。
      一方、遅滞なく撤去しない旧販売事業者の供給設備を新販売事業者自らが撤去したからといって、旧販売事業者の対応が消費者の解約の意向を無視するものであれば、これまでの判例からみても旧販売事業者は保護されていない。
  3. 解約猶予期間の規定の削除
    契約における解約猶予期間との関係では、現行通達において、「販売契約の解約猶予期間等を定める契約条項がある場合等には、最低限、その日までは液石法上の義務は生じない。ただし、解約猶予期間については必要最小限の期間とすべきであり、一か月を超える期間を設定することは望ましくない。」との規定がある。
    しかしながら、上記横浜地裁の判断においては、消費者から解約の意思表示を受けたLPガス事業者が、当該意思表示後も供給設備を消費者宅等に残置しておくことが許される相当期間としては、一週間とするのが適当とされている。この点に鑑みれば、現行通達の上記規定を残しておくことは、「一か月の解約猶予期間を定めていれば、いかなる場合でも、一か月間は供給設備の撤去義務が生じることはない。」等の誤解を販売事業者に抱かせることとなるため、削除することが適当である。
    なお、本規定の削除は、契約における現行の解約猶予期間に関する規定自体の効力に影響を与えるというものではない。
    また、販売事業者は、下記横浜地裁決定及び東京地裁判決の趣旨を十分、吟味、考慮して、必要に応じて、契約条項を見直すべきである。
  4. その他
    今回の省令改正は、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(液石法)第16条第2項に基づく液石法施行規則第16条(販売の方法の基準)の改正であり、液石法第14条第1項各号の規定による記載事項を変更するものではないため、液石法第14条第1項の規定により書面を再交付する必要はない。

参考

1)横浜地裁の例

横浜地裁は、(1)旧販売事業者におよそ自社の設備の取り外しの期間を与えないというのは、秩序のない競争をもたらすものであり、法治国家の下では到底採用することができないところ、(2)旧販売事業者が供給設備の取り外し等の準備と料金の精算等のための相当期間は、一週間とするのが適当であり、(3)この期間が長期になると契約切替に対する巻き返しを長期にわたり行うことになり、弊害が生じるおそれがあるとし、(4)約款所定の一か月もいささか長すぎるのであり、相当期間としては、約款のない場合と同様に一週間とし、その限度で約款の効力を変更して解釈すべきものと解する、との判断を示している。
また、この期間を経過しても債権者(旧販売業者)が本件LPガス供給設備の取外しをしないときには、債務者(新販売業者)は、切替契約の履行をするのが妨害されているとして、その排除を求める裁判上の請求をすることが可能となると解される、との判断を示している。

2)東京地裁の例

東京地裁は、交付書面に、「解約希望日を一か月前までに書面にて販売事業者に通知願います」、との記載があることについて、(1)本来、消費者の側からLPガス販売事業者に対して将来に向けてその供給契約を解除することは自由であるとした上で、(2)交付書面には、解約に伴う精算や閉栓作業に関する手続き的事項については明記されているものの、解約しうる時期やその効果発生に関する実体的事項については何ら記載されていないことにかんがみれば、上記文言は、突然の解約通知による適切な対応が困難な場合が生じることなどを慮り、相当な期間前に通知すべきことを要請したに過ぎないと解されるとし、(3)それを超えて解約の効果発生時期についてまで定めたものと見ることは困難であって、(4)交付書面の記載によって直ちにLPガス販売事業者と顧客との間に解除の効果発生時期に係る合意が成立したものと認めることはできない。(5)したがって顧客がLPガス販売事業者に対して解約の意思表示をしたことにより、本件各供給契約は将来に向けてその効力を失ったのであって、LPガス販売事業者が顧客に一か月分のLPガス代金の支払いを求めることはできない、と判示している(ただし、この東京地裁の判例においては、解約の効果発生に関する明確な契約条項がある場合におけるかかる解約猶予期間の効果について判断が示されているわけではない)。

■液石法施行規則第16条に違反した場合の措置

注)条文は、液石法(液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律)